COLUMN
長期優良住宅を注文住宅で建てるメリット・デメリット・申請の流れ
長期優良住宅認定制度をご存じでしょうか?一定基準を満たす住宅であれば住宅ローン控除や税金の優遇を受けることができる制度です。今回は、長期優良住宅制度の内容、注文住宅で長期優良住宅を建てるメリットとデメリット、申請の方法をご紹介します。
長期優良住宅とは?
長期優良住宅とは国の認定基準をクリアした優良な住宅
長期優良住宅とは、建築・維持保全に関する計画を、構造および設備に良好な状態で長期にわたって住み続けるための措置を講じた優良な住宅です。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて認定されます。新築住宅を対象とした認定が平成21年6月より開始され、中古住宅のリフォームなど増改築を対象とした認定が平成28年4月より開始されました。
長期優良住宅の認定には、さまざまな基準をクリアする必要があります。大きく分けて「長期に使用するための構造および設備を有していること」「居住環境等への配慮を行っていること」「一定面積以上の住戸面積を有していること」「維持保全の期間、方法を定めていること」4つの基準を満たす必要があります。
長期優良住宅の認定基準に適合する必要がある
4つの基準では具体的に理解しにくいため、長期優良住宅として認定されるための基準を分かりやすく解説します。認定基準には9つの項目があり、項目ごとに必要な等級や基準値などが定められています。
1. 耐震性
住宅としての機能を長く維持するためには、耐震性は欠かすことができません。以下のいずれかを満たしていることが必要です。
- 耐震等級2以上
- 安全限界時の層間変形に対する割合が1/100(木造の場合は1/40)以下
- 品確法に定める免震建築物
2. 省エネルギー性
窓など開口部にも断熱が施されていることが求められる省エネ基準最高レベルの断熱等性能等級4が条件です。
3. 維持管理・更新の容易性
建物に比べて耐用年数が短い配管設備や内装などは、点検や清掃、補修といった維持管理や更新を適時行わなければなりません。
◎一戸建て住宅の場合
維持管理対策等級(専用配管)3を満たす必要があります。
◎共同住宅等の場合
維持管理対策等級(共用配管)3、更新対策等級(共用排水管)3を満たす必要があります。
維持管理対策等級3とは維持管理や更新を行う際に、建物にダメージを与えず容易に作業できる建物であることを示しています。
4. 劣化対策
原則として、3世代以上にわたって居住できる劣化対策が講じられていること(劣化対策等級3相当)に加えて、構造の種類に応じた基準を満たすことが条件です。
◎木造の場合
床下空間の有効高さを330mm以上確保し、床下と小屋裏の両方に点検口を設置する必要があります。
◎鉄骨造の場合
柱・梁・筋交いに使用されている鋼材の厚さの区分に応じて防錆措置をすること、または木造の場合と同じ基準を満たしていることが必要条件です。
◎鉄筋コンクリート造の場合
水セメント比を減らすか、かぶり厚さを増やすことが条件です。
5. 住戸面積
良好な居住水準を確保するために、一定以上の住戸面積(バルコニーや玄関ポーチなどを含まない面積)を有する必要があります。相対的な面積が減少する地域では引き下げも可能ですが、所管行政庁が定めた面積要件を満たしていなければなりません。
◎一戸建て住宅の場合
75平米以上、少なくとも1階か2階かどちらかの階の階段部分を除く床面積は40平米以上あることが条件です。
◎共同住宅などの場合
55平米以上が条件です。
6. 居住環境
地区計画、景観計画、条例による街並みなど行政による計画に沿うことが条件です。また、建築協定や景観協定などの区域内に建物がある場合には、協定の内容と調和を図る必要があります。
7. 維持保全計画
建築時から将来を見据えた定期的な点検や補修を実行するための計画を策定する必要があります。家を支えるために必要な部分や雨水の浸入を防止する部分、給水や排水のために住宅に設ける設備、すべてに関する定期的な点検や補修などに関する計画(維持保全計画)の策定が条件になります。また、政令で定められた設備については、仕様に応じた点検の項目、時期を設定することが必要です。
8. 可変性
居住者のライフスタイルが変化したときに、間取りが変更できるよう、仕上げ材を含まない構造上の天井の高さ(躯体天井)を2,650mm以上確保することが条件です。なお、一戸建て住宅にこの条件は適用されません。
9. バリアフリー性
将来的なバリアフリー改修に対応できるように、共用廊下などに必要なスペースを確保されていることが条件です。高齢者等配慮対策等級(共用部分)3が条件です。なお、一戸建て住宅にこの条件は適用されません。
注文住宅で長期優良住宅を建てるメリット
生活面のメリット
ここまで長期優良住宅の認定を受けるには、さまざまな基準を満たさなければなりません。それでは、注文住宅で長期優良住宅を建てた場合には、どのようなメリットがあるかを生活面のメリットからご紹介します。
家族が快適に過ごすことができる
さまざまな基準をクリアして認定された長期優良住宅には、長く住み続けるための高い性能が備わっています。そのため、家族が安心して快適に生活できる点がメリットです。
例えば、認定基準にある省エネ性を満たす断熱性能によって、外気温の影響を受けにくい屋内環境が実現します。空調設備で一度快適な室温にすれば、少ないエネルギーで室温を保ちやすくなります。そうすれば、室内外の寒暖差が少なくなることによって体に負担がかかるヒートショックのリスクを下げることも期待できるでしょう。また、耐震基準をクリアした住宅は、大きな地震が起きても損傷が少なく、容易に改修できます。長期優良住宅には高齢者に対する配慮が求められた基準もあるため、自分や子どもが年を重ねても世代を超えて住み続ける家をつくることもできるでしょう。
定期点検・修繕により資産価値が落ちにくい
住宅性能を保つために、長期優良住宅の認定基準では、建築後の30年間において10年以内ごとの点検・修繕を行うことが条件です。それにより、住宅の質を長く維持できます。また、住宅性能を保ち続けることは、住宅としての資産価値を保つことにつながります。もし売却をするときにも、長期優良住宅は付加価値として評価されるポイントです。先々を考慮して、定期的なメンテナンスを心がけましょう。
金銭面のメリット
長期優良住宅認定制度は従来の住宅をつくっては壊す社会から、住宅を長く大切に手入れをしながら使う社会へ転換するために設けられた制度です。長期優良住宅認定制度普及のために、国は減税や住宅ローンの金利優遇などさまざまな支援策を講じています。
税金の優遇措置を受けることができる
・住宅ローン減税
住宅の建築、購入に住宅ローンを利用した場合、年末時点のローン残高の1.0%が10年間、所得税や住民税から控除されます。さらに控除対象借入限度額が一般住宅では4,000万円ですが、長期優良住宅であれば5,000万円です。
なお、実際に納税する額が控除額の上限となるため、すべての人が限度額上限まで控除を受けるころができるわけではありません。しかし、控除対象借入限度額が1,000万円も多く優遇される点は大きなメリットです。
・投資減税型の特別控除
長期優良住宅の場合、住宅ローンを利用せずに住宅を建築、購入したときに、投資型減税を受けることができます。長期優良住宅を建てるために一般住宅を建てるよりも多くかかってしまう費用「標準的な性能強化費用相当額」の10%を所得税から控除される制度です。控除対象限度額は650万円、最大控除額は65万円です。住宅ローン減税のように控除期間はありません。1回に限った控除です。
・登録免許税の税率引き下げ
住宅の建築、購入をしたときの「所有権保存登記」や「所有権移転登記」にかかる登録免許税の税率が引き下げられます。一般住宅の税率は、所有権保存登記は0.15%、所有権移転登記は0.3%です。長期優良住宅の場合には、所有権保存登記が0.1%、所有権移転登記が0.2%に優遇されます。例えば、住宅の評価額が1,000万円であれば、一般住宅の所有権保存登記にかかる登録免許税は1,000万円×0.15%=1万5千円ですが、長期優良住宅では、1,000万円×0.1%=1万円です。
・固定資産税の減税
固定資産税とは、住宅や土地の所有者が支払う税金です。
住宅の建築、購入をしたときに、税額が半分に減額される期間が、一般住宅では3年間ですが、長期優良住宅であれば5年間に延長されます。
※2021年9月現在で施行されている法令等に基づき作成しております。
条件を満たせば補助金を受け取ることができる
長期優良住宅を新築、購入すると、最大で110万円を「地域型住宅グリーン化事業」の長寿命型(長期優良住宅)における補助金として受け取ることができる場合もあります。この制度を利用するためには、国土交通省から採択された中小工務店で木造住宅を建築することや、地域材を主要構造部に用いることなど条件があります。
フラット35Sの金利優遇を受けることができる
長期優良住宅の認定を受ける場合、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携した住宅ローン「フラット35」のプランの1つ「フラット35S」を利用できます。例えば、「フラット35S」の金利Aプランでは、借入金利を10年間、0.25%まで引き下げることができます。
デメリットは申請手続きに手間がかかる
長期優良住宅の認定を受ける場合、所管行政庁に申請を行わなければなりません。審査依頼、認定申請書と図面など添付図書をそろえて提出しなければならず、自分で申請する場合には手間がかかります。しかし、ハウスメーカーや工務店など、長期優良住宅の取扱い実績がある建築会社で申請を代行してもらうことも可能です。また、申請は着工前までに行う必要があるため、認定に必要な書類をしっかり備えましょう。
長期優良住宅認定手続きの流れ
長期優良住宅の認定を受ける場合、定められた手続きをもれなく行わなければなりません。また、この制度を利用するためには工事の着工前に認定手続きを完了している必要があります。早めに計画を立て、建築会社に相談しましょう。
認定手続きの流れは「技術審査の依頼」→「適合証の交付」→「所管行政庁へ認定申請」→「認定」です。技術審査の依頼は、申請者が登録住宅性能評価機関に依頼します。登録住宅性能評価機関による審査が行われ、適合証が交付されます。申請者は、登録住宅性能評価機関から受領した適合証と、必要書類をそろえて所管行政庁へ提出します。所管行政庁で審査が行われ、認定されれば、所管行政庁から認定通知書が交付されるため受領しましょう。
認定通知書の受領後に工事が行われます。また、工事完了時に所管行政庁へ認定を受けた計画に基づいて行った工事が完了したことを報告しなければなりません。
申請に必要な書類は、以下です。
- 認定を受ける住宅の情報を記載した「認定申請書」
- 認定を受ける住宅が認定基準を満たした設計であると示す「設計内容説明書」
- 認定を受ける住宅が設計内容説明書のとおりに設計されている根拠となる「各種図面・計算書」
- 適合証など所管行政庁が指定する「その他必要書類」
多岐にわたる複雑な資料をそろえるには、時間がかかります。また、必要書類を提出したあと、認定を受けるまで審査期間も必要です。
そのため、申請書の作成や提出は慎重に行いましょう。書類や添付する資料に不備があれば、認定まで余計に時間がかかってしまいます。
注文住宅を建てる際は長期優良住宅を検討しましょう
長期優良住宅の認定を受ければ、売却時の付加価値や減税、住宅ローンの金利優遇など多くのメリットがあります。長期優良住宅は、認定基準を満たした高い性能が備わっており、家族が快適に長く安心して過ごすことができる優れた住宅です。継続的な点検・修繕が必要ではありますが、住宅性能を保ち続けるためには必要なメンテナンスです。新築注文住宅の購入をお考えの方は、ぜひこの機会に長期優良住宅の建築を検討してくださいね。